個人の医療負担が減ると病院の需要が高まる。
個人の医療費の負担額をいくらにすべきか?という問題は、世界中で大きな議論の種になります。
特に、先進国のように少子高齢化が進む国や、医療制度が整って保険制度も十分に満ちている国では、
多くの人が病気になったり、病院に行ったりするたびに、国が負担するコストは上がっていきます。
とはいえ、人命は金に勝るというように、国のコストを下げるために人命を軽んじてはいけません。
だから、医療負担をバコバコと消費税みたいには上げてられないですよね。
個人の医療負担が上がった故に、病院に行く人が減って、大きな病気になったときに、むしろ大きな医療コストがかかる場合もある。
ただし、だからと言って医療費を完全に無料とかにしてた場合、皆んな大した病気でもないのに病院に行きまくって、無駄にコストがかかってきます。
色々と難しいわけです。こういう時に大切なのは、どういうデータを軸にして、議論を展開するか?というもの、
そこで、面白い調査があったのでシェアしたいのだが、それがこの画像です。
これは年齢が69歳から70歳に変わったときに、どれだけ病院に行く人が増えたか?を記したデータです。
日本ではどうやら、年齢が70になると、医療負担が3割から1割に減るようなのです。その規制を有効活用したものなのだが、
このデータから読み取れることは2点あります。 1点目は、データが全体的に右上がりの曲線を描いていることです。
つまり、65歳から72歳あたりまでのデータを見る限り、年齢が高いほど外来患者として医療サービスを利用する人が増えていることがわかります。
これは、高齢になるほど健康上の問題が出るため病院に行く必要が出てくる、という医学的な要因に起因していると思われます。
2点目は、70歳を境に大きな「ジャンプ」が見られることです。つまり、69歳11カ月の人に比べて、70歳0カ月の外来患者数が格段に多いということです。
これは医学的な要因で説明がつくでしょうか? 70歳の誕生日を迎えたとたんに、突然健康状態が変化するということは考えにくいので、
医学的な要因以外の何かが関連しているのでは、という推測がつきます。つまり、70歳を境にして外来患者数が約10%伸びたということです。
それで「自己負担額が3割から1割に減少することで、外来患者数は約10%上昇した」という発見は、
医療経済学や医療政策の世界では非常に重要な発見になり、
医療サービスの価格が1%上がった場合、需要は0・18%下がる、という計算結果がわかりました。
ここで発見された需要の価格弾力性は、最適な医療費とは何か、最適な自己負担額とはどのくらいなのか、
といった医療政策における様々な議論で、非常に重要な値になりました。凄く勉強になりました。